先日公開となった新コレクション「Endangered」では、ワシントン条約により取引が制限されている一風変わった素材を使っています。
それは、マッコウクジラの歯です。
かつての日本では鯨歯を使った工芸品が多く作られていましたが、ワシントン条約の制限もあり、現在ではお目にかかれる機会はあまり多くありません。その中でも鯨歯を使ってジュエリーを作っているブランドは、ジュエリーワンダーラスト以外にはないのでは、と自負しています。
今回は、なぜ鯨歯を使ってジュエリーを作ろうと思い立ったのか、まず鯨歯という素材の出会いについて書いてみたいと思います。
私はよく骨董市を訪れます。歴史を感じる古いものが好きということ、そしてジュエリーデザインのインスピレーションを得ることができるからです。
屋内でも屋外でも、骨董市は大抵テーブルに商品が(時に乱雑に)並べられており、気取った雰囲気もなく自由に品物を見ながら会場内を歩き回ります。
いつものように様々な「ガラクタ」が並べられている各店の合間を歩いていると、小さなアクセサリーや小物をたくさん並べているお店がありました。私は古いアクセサリーやジュエリーがあると足を止めずにはいられないので、そこでもじっくり眺めることにしました。
シルバーや金メッキのコスチュームジュエリーが山程置かれたテーブルに、バラバラっと乱雑に見慣れないものが置いてあります。薔薇のカーヴィングです。
一見して、「水牛などの骨か角か、それか象牙かな」と思いました。手に取りながらそんなことを考えていた私に、店主は「それはマッコウクジラの歯だよ」と言いました。
そして興味津々の私に、色々と教えてくださいました。
「ほら、象牙とは模様が違うでしょ」
象牙には縞模様があるのですが、確かになんだか違います。
「鯨の歯は象牙よりさらに固いから、彫刻するの大変なんだよ」
鯨歯の彫刻は、私も以前からコレクターズアイテムとしてひとつは持っておきたいと思っていたものだったのですが、まさかこんなに精巧でジュエリー向きな大きさのものに出会えるとは思っていませんでした。結局、この機を逃したらもう出会えないと判断し、そこにあったものを吟味しながら複数購入しました。
さて、大変なのはここからです。
「買ったものの、一体何に使おう…このまま私のコレクションとしてお蔵入りか…」、一瞬そう思いはしたものの、「ほかの宝石と組み合わせてピアスにしたら可愛いのでは?」とひらめきます。
そうと決まれば、まずは鑑別に出します。しかしいつも利用している鑑別機関では鯨歯は取り扱えず、結果は「鑑別不可」。最終的には、鯨歯を専門にしている方々に助けていただきました。
鯨歯は、何十年前にはおそらくもっと白に近い色であったと予想されますが、今はこってりとしたクリーム色をしています。何に合わせると素敵なジュエリーになるのか、手元にある色々な色の宝石を組み合わせて試しました。しかしこれが思った以上に難航。合わせる色によっては、クリーム色が「黄ばみ」のように見えてしまうのです。試行錯誤のなかで一番鯨歯の美しさが引き立ったのが、優しい同系色の真珠でした。
そして出来上がってきたピアスを見て、販売開始しようと思った時、ふとひとつの疑問が浮かびます。
「あれ、これって販売できるのか?」
一番最初に考えるべきことに一番最後に気が付くなんて。「面白い!」と思った素材は後先考えずに買ってしまう、よくない癖です。
ワシントン条約のため輸出はできないとして、国内販売に制限はないのか。ちなみに象牙は、販売するのに許可が必要になります。
結局、経産省と環境省に連絡を取り、販売の確認を取りました。
そんな紆余曲折を経て発表となった「Endangeredコレクション」。失われし鯨歯という素材、そしてそれに美しい彫りを施す職人技を、多くの方に見ていただけたら幸いです。